弓木くんはどうやらわたしが好きらしい
となりの席の弓木くん

𓐍
𓏸


隣の席の弓木(ゆみき)くんは、いじわるだ。



「うわ。中瀬(なかせ)、また泣いてんの?」




放課後。

窓から茜色の夕日がさしこむ、誰もいない教室にて、わたしは机に突っ伏せて、感傷にひたっていたはずだった。


そう、誰もいない教室にて。




「なんっで、弓木くんはこういう日に限って戻ってくるかなあ……!」




ガバッと顔を上げて、弓木くんを睨みつける。

弓木 千隼(ゆみき ちはや)くん、17歳、属性クラスメイト。
特殊装備イケメン、必殺技は────。




「中瀬、目、やば。土偶みたい」

「ひ、ひどい……。いくら顔がよくてもなんでも許されるわけじゃないんだよ。言っていいことと悪いことがあるんだよっ?」

「またフラれたんだ?」




先に謝ってよ、弓木くん。

土偶はだめだよ、わたしだってこんなんだけど、いちおう女の子なんだから。いちおうね……。




『悪い。やっぱ、このかのこと女として見れねえわ』

『え……』

『お前みたいなのは味見くらいでちょうどいいんだよな』



ぐさり、思い出して、突き刺さる。

つい数十分前まで、彼氏 “だった” ひとがわたしの心にどしっと置いていった最後のひとこと。



そうだよ! フラれましたよ!
弓木くんの言うとおり。



放課後、珍しく、向こうから呼び出してくれて、デートかなって舞い上がっていたら、わたしの恋は目の前であっけなく散っていった。




「もう何回目? 失恋マスター」

「う……、そんなマスターはいやです……」

「事実だろ。つうか、中瀬は男見る目なさすぎ」




弓木千隼くん、必殺技は正論である。





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