淋れた魔法
図書室から駅までをついてくみたいなかたちで一緒に歩くのは毎日してるけど、おれはさりげなく、駅のほうじゃない道を選んだ。
すると先輩が後をついてくる。いつもと逆。嘘吐いてよかった。
「身近な人に当てはめてみたり、季節やモチーフを決めたりすると書きやすいみたいだよ」
「そうなんですか?」
「うん。水島先生が言ってた」
いや、アイツの受け売りかよ。
どういった会話の流れでそんな話になったんだろう。
知りたいような、それでいて、絶対に知りたくないような。
「季節は夏がいいです」
ゆり先輩が好きな季節だから。
「そうなんだ。季節違うから書きにくいかな」
「や…思い出しながらがんばる、です」
がんばる予定もないのを悟られないように笑う。
「だから思い出すために、一緒に夏っぽいことしましょ」
まだ秋口。いつもより読書を短く切り上げてくれたから時間はある。勉強も「今日はおやすみする」って言ってた。おやすみって、かわいー。
とにかく、嘘であれなんであれ、ゆり先輩が初めておれのためにつくってくれた時間。
存分に楽しみたいってのはおれだけの都合だけど。
「きみにとっての夏っぽいことってなに?」
でも、いろいろ聞いてもらえるの、本当にうれしい。
「えー…アイス食ったり、海行ったり、星見たり、とか」
まあこれ、先輩が読んでた本で出てきたシーンを浮かべただけだけど。
「じゃあ、今が暑い日だと仮定して、海のほうに行ってみよっか」
「え、なら駅戻らないと」
「たしかに。でも、海を目指すならいつもと反対方面に行くね」
「……」
なんか、ゆり先輩、楽しそうじゃね?
小さいけど笑ってる。