淋れた魔法
「や、わたしは、とくに好きとかないの」
「……はい?」
「感情移入するタイプでもないし、映像に置き換えられるほどの想像力もないし、文章を追いかけてるだけなんだ。知らない漢字や言葉が出てきた時に調べるほうが好きかも。おもしろいかおもしろくないかしか感想もないし」
え、それ、おれじゃん。
今人生で一番びっくりしたかも。
「あんなに毎日違う本読んでんのに?」
「じつは…ただの暇つぶしなの」
彼女は照れくさそうに目じりを落とす。
なんだこの、まさかの展開。おれが嘘吐いた意味…。
「だからこそ、小説家になりたいって土屋凜の夢はすごいなって思う」
「でも好きじゃないんですよね?」
「だけどたくさん本は読んだから、あんなふうに物語を自分で考えたり、登場人物を生み出したり、まるで生きてるみたいに動かしたり本当に起こってることのように書ける作家さんってすごいひとたちだなあって思ってるの」
ただの暇つぶし、と喩えるにしては、いつもより流暢。
付きまとって半年以上経つけど今までこんなに話してくれたことはなかったから素直にうれしくなってしまうのはもう、言い方は良くないけど病気に近いんじゃないかな。
「……おれは、おもしろかった、のほうに分類してもらえるような話がいいな」
「そっか」
「でもよくわかんねーんですよね。どんなふうに話思いついてるんだろ、とか、どんな主人公がいいんだろうとか」
正門をくぐりながらテキトウにテキトウを重ねて、どうにか会話を成り立たせる。