求められて、満たされた
せっかく、こうやって学べる空間を手にしたのにそれを棒に振るのは勿体ない。
それにこうやって行きにくい状況を作ってしまったのは他の誰でもなく、私だ。
「じゃあ、行ってくるね。」
「おう、行ってらっしゃい。」
車を降りて俊介に手を振る。
一度深呼吸してから私は学校の中に入った。
私が通っている専門学校はビル状の建物。
1階は職員室兼受付となっている。
2階と3階は休憩スペースが設けられていて授業の無い生徒はそこで時間を潰したり会話を楽しんだりしている。
流石にそこにはまだ行く勇気が出ず、少し早いが私が受ける授業の行われる階まで行った。
教室の扉を開けるとまだ誰も居らず、ホッとする。
とりあえず後ろの方の席を確保し、楽譜を取り出す。
今から受ける授業はソルフェージュで、座学だ。
だから、周りと話す必要も無いし眠くて寝る生徒も多い。
まあ学校復帰後初の授業にはもってこいだ。
「え、奈生?」
楽譜を読むのに集中していて教室に入ってきた生徒の存在に気付くのが遅れた。
「遥香…。」
「奈生…奈生だよね?」