鬼の棲む街



初めて入ったラブホテルは如何にも・・・のような雰囲気もなくシンプルで、どちらかと言えばオシャレ


存在感タップリの大きなベッドを横目に見ながら


「シャワー、浴びてくる」


そう口にしたところで長い腕に囚われた


「どうした?」


「・・・なにが?」


「変、だぞ?」


「嫌なら他を当たるけど?」


「・・・っ」


気持ちを込めて欲しいなんて一度も思ったことはない

そんなこと求めてもない


私の雰囲気に諦めたのか基はそのままベッドに押し倒してきた


「シャワー、んんっ」


「いらねぇ」


強引に塞がれた唇


隙間なく触れる熱い舌も


これまでと同じなのに


触れる手が


熱い息遣いが


囁く言葉さえ





こんなにも





・・・違和感





♪〜♪〜♪〜


不意に

ポケットの中で振動を始めた携帯電話に意識が呼び戻される


反応をやめた私に基は諦めたのか身体を離した


「出るんだろ」


「・・・うん」


私の返事を聞いて基はバスルームへ向かう

バッグから取り出した画面に表示された名前は


[大澤紅太]


よりによってこのタイミングとは・・・

切れて欲しいと願うのに鳴り続けるそれに


諦めた指が動いた


(小雪)

「・・・・・・なに」

(どこにいる)

鼓膜を揺らす低い声より
まるで私が何処に居るか分かった上でかけてきた気がして

「・・・ラブホテル」

隠したい気持ちが消えた

(・・・チッ)

舌打ちひとつで苛立ちを向けられたことにスイッチが入る

「プライベートにまで踏み込んでこないで」

態とふっかけた喧嘩を

(小雪!)
紅太は買った

勢いに任せて切るつもりの耳に届いたのは

(自分を大事にしろ)
懇願するような優しい声だった

・・・狡い

鬼の癖に

(浮気するなよ)

彼氏でもないのに

心を揺さぶるような紅太の声は不安定だった心を落ち着かせた


「・・・此処、出るわ」

(約束だぞ?)

「約束ね」

(あぁ)

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