鬼の棲む街
仕組まれた未来



携帯電話を充電に繋いでダイニングルームへ急いだ


扉を開けただけで分かる重い空気に鬼達の顔を思い浮かべた


「お帰りなさい。小雪」


いつになく上機嫌な母様に違和感


「・・・ただいま」


兄様はいつもと同じ優しい眼差し


「大学へは真面目に通ってるか?」


「うん」


他愛もないやり取りも全く続く気がしなくて


運ばれてくる料理から視線を外さず食べることに集中する


「あ、そういえば」


不意に母様が手を止めた


兄様に話しかけていると判断して返事もしない私に向けて


「GW中に創立記念パーティーがあるからね小雪にも出て貰うことになるわ
Hホテル。そこで四年後の結婚相手が決まるの」


そこまで聞いて反射的に顔を上げる


「・・・え」


「その候補の中にね?五十嵐さんの御子息がいらっしゃるんだけど・・・貴方達、仲の良いお友達なんだってね
父様もとても喜んでいるわよ
あ、そうそう新しい携帯番号お教えしたわ」


なんてことだろう
母様に抱いた違和感はこれだ

胸が嫌な音を立てて騒ぎ出す

完全に食欲を失って気分まで悪くなった


「小雪、どうした、顔色が悪い」


兄様の声に


「あら、本当」


母様の呑気な声


それをどこか遠くに聞きながら部屋に戻ることだけを考えていた


「部屋で、休み、ます」


どうにか絞り出した声


「お医者様に来てもらう?」


「いいえ、少し休めば大丈夫」


フラつく足を踏ん張って立ち上がると一秒でも早く戻りたい気持ちだけで足を進める


部屋に戻ると鍵をかけ倒れ込むようにベッドに向かい携帯電話へ手を伸ばした






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