鬼の棲む街
会いたい



白の選んだ服を着て白が好きだという色でメイクをする


白と同じブランドの靴を履いて暫く振りに外へ出た


車の窓越しに見える景色は私の育った懐かしい街なのに

何故だか現実的ではなくて映画の背景を見ているよう

ふと・・・
流れる景色に映り込んだ公園に並んだ桜の木は緑一色だった



『来年は見られるよ。ものすごーーーく綺麗だから』



頭に蘇った緩い声

紅太の特別だという
あの桜を見ることはないだろう

こんなことなら紅太に聞けば良かった
最上階に態々大量の土を入れて桜の木を植えた理由・・・

叶わない過ぎた日の後悔は初めて頬に触れた感触を思い出させた

冷たくて・・・やっぱりと思った
その指先を忘れないように
白に繋がれそうになる前に予防線を張る


老舗デパートの駐車場に車が止まると[外商]の名札を付けた男性が待っていた


和かに話す白とその人の声をどこか遠くに聞きながらエレベーターに乗り込んだ


「・・・っ」


途端に鼻腔を刺激する香りに息を呑む


一瞬で思い出されるあの笑顔に懐かしさが込み上げる


香りにさえ反応するようになったのかと自嘲して胸の苦しさに耐える

そんな私に気付きもしない二人は扉が開くと躊躇うこともなく降りた

まだ箱の中に居たいと願う気持ちに蓋をして重い雰囲気のフロアに降りた


無意識に視線が彷徨うのは僅かな希望がさせるもの

閉店間際の宝飾品フロアはシンとしていて

頭に浮かぶ姿は煙と消え一時の慰めにしかならなかった



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