鬼の棲む街



・・・嘘つき


浮気するなよって言ったくせに来ないじゃない



居るはずもないのに
こんなにも鬼達に会いたい


あの日みたいに迎えに来てよ


漆黒を纏う鋭い視線も


緩くて甘い声も


身勝手な俺様も


関わって間がないのに私の胸の中に居座ってるんだから



愛だの恋だの言う前に



・・・私を温めてよ



ポロリと溢れた涙に愛しい気持ちを知った



もう二度と会えなくなるなら鬼に会いたい


他に何も要らないから



・・・あの街へ連れて行って






『会いたいと・・・純粋にただ会いたいと心が言うの』




切なくて・・・


苦しくて・・・


想うだけで温かい



そんな“会いたい”を見つけた




・・・愛さん


これで合ってますか?



こんなに離れているのに



会いたいというその想いで

不安な気持ちも

靄がかかる胸も

清々しいほどに晴れていく







願わくは・・・




初めて知る想いを


形にしてみたかった



何十回も何百回も・・・無限に


実感してみたかった




想いの先が変化するのを



感じてみたかった



初めての想いは


初めての胸の痛みも連れてきて



でも・・・


その痛みさえも心地良い



もう二度と会えないから・・・



この先、誰かを好きにならなくても



芽生えた胸の温かさで


生きていける


鬼達にかけられた魔法に
前を向く決心がついた


少し距離の開いた白の背中を追いながら落ちた涙を拭う









刹那、伸びてきた腕にその手を引かれた



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