鬼の棲む街



「やっと笑った」


「・・・」


そう言われてみれば、もう随分と笑っていない気がする


「一先ず、物凄く探してるから手は打ってある」


「・・・え」


「捜索願いを出されるかもしれないでしょ?」


そうだ・・・デパートの中でいきなり消えたのだ
拉致されたとまではいかなくても心配しているには違いない


「小雪の住んでいたあの部屋はGW始まって早々に退去手続きが取られてるわ
もちろん大学には退学届けが出されてる」


「・・・っ」


「元よりGWが明けても南へは帰れない運命だったのね」


知らされる事実に身体の力が抜ける

どこまで勝手な人達だろう

鬼達に会わなければ一生籠の鳥だった


「大丈夫か」


紅太の声にどうにか頷く


「このまま居ればいつかは必ず連れ戻されるから、早めに答えを出して?
これから先、自由に生きられるように小雪に羽をつけてあげるから」


・・・羽

存在さえ知らなかったそれを愛さんは簡単に口にした


「・・・はい」


返事をした途端に溢れた涙
言葉では言い表せない感情が溢れて嗚咽になる


「泣き虫ねぇ」


笑う愛さん夫婦と涙を拭ってくれる巧

優しい眼差しを向けてくれる紅太と尋


優しい鬼達に囲まれて
子供みたいに泣いた私は


最後はまたも盛大に腹の虫も泣かせて大笑いされ


鬼の要塞の中にある大広間に移動して


それはそれは怖い面々とご飯を食べることになった



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