鬼の棲む街



「とりあえず、小雪の気持ちを聞かせて」


愛さんの問いかけにひとつ頷いた


「これまでみたいに星南大学へ通って卒業したら五十嵐琥白と結婚する?」


「・・・」


「愛っ」


言葉に詰まった私を見て声を上げた尋に


「尋、小雪の人生だから小雪が決めることなのよ?」


愛さんは冷静なまま続ける


「思うことを言ってみて?」


「私は・・・この街に居たい」


「それはこれまでと同じってこと?」


「ううん。白、いや五十嵐琥白とは結婚したくない」


「あのパーティーで相手は五十嵐琥白しか居なかったでしょ?」


「はい」


「駒にするには相手が不十分だけどね」


愛さんはそう言って笑った


「愛さんはこのことを知ってた?」


「そうね。小雪のことを調べた時には掴んでいたけど・・・
小雪の気持ち次第では言うつもりは無かったわ」


「・・・」


「五十嵐琥白の所為で友達すら出来なかったことも
小雪が相手を好きならそれはただの独占欲で片付けられるからね」


愛さんは全て知っていて敢えて私が現実と向き合うようにした?

そう思えるのは家族と一生会いたくないと思えるほどの虚無感


「もう二度と会いたくない。両親も、五十嵐琥白にも」


「後悔しない?」


「・・・しない」


「小雪は小さな頃から刷り込まれてきたから気付かなかったと思うけど。これは所謂“虐待”だからね
その証拠に自分からは逃げ出せなかったでしょう?」


「・・・」


「呪縛から解放されるべきなのよ」


「・・・呪縛」


「小雪が望むようにしてあげる」


綺麗に笑った愛さんは「例えば」と指を折り始めた


「両親と縁を切りたければ私の養子にしてあげるし
お父さんの会社を今すぐに潰すことも出来る
あ、小太り五十嵐夫婦の預貯金を全額慈善団体に寄付して漁船にも乗せられるわよ?」


「・・・漁船」


意表を突いた話にフフと笑ってしまった









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