鬼の棲む街



大学から徒歩15分


駅近でセキュリティと設備の良さが父様の心を掴んだらしいマンションは


大学から駅までの学生の波に乗っているうちに着く大通り沿い


大体の学生達は駅から電車に乗って通っているようで

この時ばかりは恵まれた家に生まれたことを幸せに思った


それより


今日はアルバイトを探すために途中コンビニに寄ってフリーペーパーを沢山貰ってきた

お陰でバッグが重い


マンション近くで見つけたお気に入りの“ビストロ杏”で夕食を頬張りながら薄い紙を捲った


「・・・ん」


数冊の求人は大体が同じもので
その中で私が出来そうなものってコンビニや飲食店くらい?

アルバイトをする必要もないけど折角の一人暮らしに折角の放し飼いの四年間

場所が違うだけでこれまでと同じ生活なんて勿体ない

大学を卒業したら就職することなく結婚するはずだからせめてもの社会貢献?・・・大袈裟


それが・・・
食後のコーヒーを飲む頃には諦めムードが漂っていた


「ん?なに?バイト先探してんの?」


シェフの小林さんがフリーペーパーに気づいた


「そうなんです」


「君なら何処でも顔パスだよ」


「・・・そう、かな?」


受かるかどうかではなくて何処かを決めかねている


「うちが大きな店なら迷わず雇ってあげるのになぁ」


カウンター席が四席とテーブル席が三つのこの店は夫婦二人で切り盛りしている


「気持ちだけ、ありがとうございます」


「ハハ、美人で良い子って天は二物を与えるようになったなぁ」


柔らかく微笑んでくれる小林さんに


「ご馳走様でした」


そう言って立ち上がると


「いつもありがとうございます」


奥さんが洗い物の手を拭きながら厨房から出てきた


私の胃袋を掴んだ店はこの周辺でジャンル別に揃っている

その中で此処は週に二回は訪れるお気に入り


自炊をする気持ちはまだ芽生えないから賄い付きの飲食店もアリだなぁなんて思えた風の強い日だった

















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