鬼の棲む街



「最悪」


天気予報アプリからお知らせなんてないのに
講義が終わったお昼にはバケツをひっくり返したような土砂降りになっていた


大学生協のビニール傘は売り切れ
モタモタしていた所為で講義終わりの学生は既に見当たらない

かと言って次の講義が終わるまで希望的観測を続けるには長過ぎる

ショルダーバッグの中からコンパクトサイズの折り畳み傘を取り出してマンションまで帰る覚悟を決めた

これは非常用で肩がギリギリ入る程度のサイズ
晴雨兼用だから日傘のつもりで購入したもの

だから・・・ほんと心許ない

でもそんなことも言ってられない

ショルダーバッグを肩にかけたまま身体の前に回して
なるべく濡らさないように小さくなる

意を決して土砂降りの中へと足を運ぶと一瞬で肩から下が雨の餌食になった


「・・・」


雨に濡れるのなんていつ振りだろう

栄星学園へは車で送迎されていたし
遊びに行くような友達もいなかった

白と会うのだって家を行き来するのは車だったから

雨に濡れるのは・・・
実際初めてなのかもしれない

そう考えただけで肌に張り付く服の感じも

グチュグチュ不愉快な感覚しかないパンプスも楽しいなんて思えてきた


だから・・・
スッカリ雨に気を取られて油断していた


「ヨォ、お姉さん」
「良いねぇ。美人の笑顔って」
「濡れてるから雨宿りしようぜ?」


気味の悪い三人の男に行く手を阻まれるまで





自分が笑っていたことに気づけなかった







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