鬼の棲む街



お母さんの刺繍を見ていると可愛らしいティーポットが運ばれてきた


「カモミールティにした」


良い香りに気持ちが落ち着く

カップを手に持ったタイミングでお母さんが「あ」と声を上げた


「椿はどうかしら?」


「椿?」


「そう!椿は椿でも“雪椿”小雪の雪が入ってて、しかも綺麗なの。花言葉は“変わらない愛”よ」


「へぇ、小雪に良いんじゃない?」


愛さんは持っていたタブレットを操作すると綺麗な雪椿の画像を見せてくれた


「綺麗」


薔薇にも負けない綺麗な花になんだか嬉しくなる


「決まりね?これからママ忙しくなるわ!色々出来たら送ってあげるね」


ウェーブの髪を揺らしながらコロコロ変わる表情は可愛らしくて最初に感じたままのイメージ


最後に片目を閉じたお母さんは


「あ、小雪もママって呼んでね?」


そう言って少女のように笑った


「私もってことは・・・」


愛さんをチラリと見ると


「私は昔からパパとママって呼んでる」


当然だと言わんばかりに片目を閉じた


母娘ってこんな風にフワフワした関係なのだろうか


「じゃあ私の呼び方も決めようかな〜」


楽しそうに語尾を伸ばした愛さんは散々唸ったあとで


「やっぱ“愛”でいいよ」


お手上げと言わんばかりに両手を上げて笑った


「いきなりの呼び捨て?」


「だって今のままだと“さん”付けだもの」


「それは・・・」


「身内に“さん”とかありえないでしょ」


呆れ顔を見せる愛さんに


「これまでは“さん”どころか“様”をつけていたわ」


正直に話せば


「え、じゃあ“姉様”?んんんんっ
ちょっと呼ばれてみたい気もするけどダメ!たった今から“愛”って呼ぶこと」


強制的に決まった





新しく始まる【田嶋小雪】の人生は


笑顔に溢れている予感しかしない







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