鬼の棲む街



お喋りの途中で顧問弁護士の先生が養子縁組届を取りに来た

そして・・・
一時間後には受理証明書が届けられた


それを見ながら「めでたいな」とのパパのひと声で鬼達と乾杯することになった


パパから大学への復学を勧められたけれど

大学に通うこと自体に目標も無かったことを思い出して断った


「十八の娘はニートでも良いか」
なんてご機嫌なパパに


とりあえず杉田さんのお店のバイトをしながら

これから先のことをゆっくり考えてみたいと

ニートでは無いことを説明するも


「杉田の店なんて客も来ないだろ」


何故か盛大に笑われただけで終わった


それでも


あるはずの無かった未来を思うだけで幸せなんだもん


つくづく

目標も無かったけれど星南大学へ進んで良かったと思う

鬼達と出会えた南の街を選んだ自分を褒めてあげたくて


グラスのシャンパンを一気に飲み干した


「夕食は食べて行くでしょ?」


ママの問いかけに愛が頷いて


出来上がるまでの間ソファに戻ることにした


愛は迷わず一平さんの隣へ


私は、と考えるより先に紅太の長い手に捕まった


「・・・っ」


そのまま手を繋いだ紅太は


「気が済んだか」と顔を覗き込んできた


目の下を拭うように触れる紅太の長い指

泣いて気が済むのは悔し涙で
昨日からの涙は嬉し涙だから気が済むことなんてない

それより・・・

「・・・っ!」


近い近い近い近い近い


背中を反らして離れようとしたけれど

大きな手に包まれたままの私の手が邪魔して離れられなくて

「フッ」と意地悪に笑う紅太の片方だけ上がった眉にムカついて


繋いだ手をスッと抜き取った


意表を突いて“してやったり”と笑いたかったのに


途端に熱の逃げる右手が寂しくて


意味もなく泣きたくなった















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