鬼の棲む街
六人座れるテーブルが二つ縦に並んだダイニングルームには
元々愛の側近で今は一平さんと愛の側近という大谷勇気《おおたにゆうき》さんと紅太の側近も座っていた
パパが私を紹介してくれて全員で乾杯をした
ママが作ってくれた料理は優しい味で溢れていて
母親の手料理を食べたことのないこれまでを思い返して感極まる
そんな私を温かな表情で見守ってくれた
過去に此処が鬼の要塞であったことすら知らない私は
「次に帰ってくる時には小雪の部屋ができてるわよ」
ママの優しさに子供みたいに泣いて
最後は「泣き過ぎ」と笑われ
初めての楽しい家族団欒を楽しんだ
□□□
「近いうちに我が家にも招待するわ」
そう言ってくれた愛と
「家のことを教えるから、いつでも帰っておいで」
見送りに出てくれた両親に手を振って田嶋の家をあとにした
「楽しかったか」
「とっても」
ほろ酔いで乗り込んだ車の中も
少し寝たお陰で眠気はなくて
少し外の景色を眺める余裕がある
右側に紅太の気配を感じながら漆黒の街へ視線を移しても
窓に映り込む背後の紅太が気になって仕方ない
よく分からない感情を深く考えるのはやめようとしたタイミングで
微かに携帯電話のバイブ音が耳に入った
「あぁ、ん・・・いや」
それに出たのは紅太
(頭・・・・・・で・・・か)
微かに漏れ聞こえるのは尋の声
そう言えば“二人は仕事”と言っていた
「あぁ、分かった」
それだけ返事して携帯電話をポケットに入れた紅太は
「小雪、帰りに少し寄る所ができた」
私とは逆の窓の外に視線を向けたままそう言った
「うん」
返事をしたものの
それ以上は聞けない雰囲気で
大人しく景色に視線を戻した