鬼の棲む街



「・・・小雪っ」


「・・・・・・ん」



身体が揺られて重い目蓋を開く


「え」


間近に愛の顔が見えて急速に意識が浮上した


「疲れたのね。平気?」


そう言って頭を撫でてくれる愛はソファの前に屈んでいる


・・・ん?寝てた?

紅太の・・・膝枕?


「・・・っ」


覚醒すると見えてきた状況に慌てて上体を起こした


「先、行ってるから。紅太連れて来て」


そう言って愛が離れたあとで自分の身体に視線を落とした


身体にかけられたブランケット

枕にしていた紅太の筋肉質の脚が頬に感触を残していて

紅太は手の甲でその頬に触れた


「跡がついてる」


・・・恥ずかしい


「・・・ごめん、ね?」


「クッ、なんで疑問系なんだ?」


「太腿をお借りしたから?」


「クッ、そうだな、確かに貸した。利子、付けるからな」


楽しそうな紅太に私の気分も上がる


「長い時間寝てた?」


「いや、ほんの二十分程度じゃねぇか?」


「そっか、ありがとう」


寝かせてくれたことが嬉しかったから素直に言葉が出てきた


「あぁ」


僅かに口元を緩めて頭を撫でてくれたところで


「食事にしましょう」


ママの声が聞こえた


少し乱れた髪を紅太の長い指が梳く


それが心地よくて目を閉じてされるがままになる



急に気配が近付いた気がして目蓋を開けると


紅太の喉仏が目の前に見えた瞬間
オデコでリップ音がした


「・・・っ」


驚いて固まる私に離れた紅太はフッと笑っていて


「利子、貰った」


片眉を上げた楽しそうな表情で立ち上がると


「行くぞ」と手を引いた








・・・無理



無理無理無理無理無理無理無理無理



「待って」


「待たねぇ」


紅太の所為で真っ赤な顔のまま皆んなの待つ食堂に着いて


「あら」

「どうした」

「フフ」

「クッ」


盛大に笑われたのは言うまでもない










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