鬼の棲む街



リップ音を立てて啄むように落とされる口付け


角度を変えて何度も何度も熱を与えられるたび


いつしか
震えていた身体は治り


その口付けだけを待つようになる


それだけでは物足りない熱を求めるように


気がつけば

紅太のスーツの胸元を握りしめていた


やがて・・・
閉じた目蓋に口付けが落とされた後


熱が離れて行った気配に


ゆっくりと目を開けた


途端に漆黒の双眸に囚われて
その漆黒に映る自分の女の表情に戸惑う


「悪りぃ」


「・・・謝らないで、よ」


無かったことにするの?


「違う」


「ん?」


「キスしたことじゃねぇ」


「・・・な、に?」


「弱ってるのにつけこんだみてぇで」



いつか聞かされた南の鬼は

女を助けたり思い遣ったりしない氷のような冷たい赤鬼

それなのに中身はこんなにも優しくて温かい


私だけが知っている秘密のような気がして


「・・・フフ」


肩の力が抜けた


「ん?」


笑い出した私に探るような視線を向ける紅太を


「これも利子なの?」


そう揶揄ってみれば



「サァ?どうだろうな」



フッと笑ったあとで強引に唇が塞がれた






「・・・っ・・・ん」





あぁ、狡い


物足りないと


そう思ったのに



今度は追い込むように侵略してくる

その落差に
小さな火種がゆるり変化する





・・・もっと





・・・もっと




その熱を
全身が欲して








初めて・・・




欲しいと思った








初めて・・・




触れられたいと願った







初めて・・・




初めてじゃないことを悔やんだ














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