鬼の棲む街
戸惑い
「尋」
紅太の大きな声に
バタバタと足音がして白の呻き声と女の子の泣き声が響く
紅太の背中に縋り付いてギュッと目を閉じている私には何が起こっているのか分からない
「小雪」
紅太に声を掛けられて背中側から引き剥がされ、抱きしめられた時には暴れていた白も尋も女の子も居なくなっていた
「悪かった」
フラフラの私を抱きとめて近くのソファに座った紅太は背中を撫でながら口を開いた
私がこの街に来てから白は探偵事務所を雇って私の身辺情報を得ていたという
その報告の一つとして私が双子と手を繋いで街を歩いた日の写真を手に入れていた
肝心の双子の情報は得られなかったものの役に立つ日が来るかもしれないと持っていたらしい
そして・・・昨日私が逃げ出して一方的な婚約破棄を突きつけられた
この街になにかあると踏んだ白は写真だけを持って彷徨い歩くうちに偶然尋を見つけてこの店まで追いかけて来たという
「きちんと別れさせてやりたかった」
この店に紅太が私を連れて来た理由
「まさか暴れているとは知らなかった」
「・・・っ」
「怖かっただろ」
「・・・うん」
「愛にも連絡したから、もう会うこともない」
「・・・うん」
「まだ震えてるな」
「・・・うん」
「すまない」
隙間なく抱きしめられてフローラルの香りに包まれる
「俺の考えが浅はかだった」
身体に伝わる紅太の熱と低い声に呼吸が落ち着いてくる
「帰るか」
「うん」
フッと聞こえた紅太の笑いに視線を向けると
「気付いてねぇのか」
「ん?」
「小雪『うん』しか言ってねぇ」
「・・・っ」
それは・・・恐怖と・・・
そう開こうとした口は紅太の唇に塞がれていた
驚きで目を見開くと間近の紅太の目蓋は閉じられていて
・・・どうして
紅太の気持ちを探ろうとする思いとは裏腹
重ねられた唇の熱に拒む気持ちは芽生えず
目蓋はゆっくりと閉じることを選んだ