鬼の棲む街



気にしないという紅太は書棚から難しい本を出してきて読み始めた


その様子を見ながら紗香の番号をタップした


「もしもし」

(え、小雪?)

「うん」

(ちょっと!どうしたの?もぉー心配してたんだからぁ)

「ちょ、ごめん、ね?紗香?」

(うぅぅ・・・)

泣き始めた紗香に暫く声をかけ続けていれば

(・・・もぅ、よかった)

落ち着いたようだ

「色々ありすぎて、何から話して良いのか分からないんだけど
とりあえず、電話で話せるのは大学を辞めたってこと、かな」

(え)

「ごめんね」

(謝らなくていいよ。私が寂しいだけ
大学辞めたからって友達は友達でしょ?)

「・・・うん。もちろん」

(じゃあ、講義からあるから切るね
後でID送るから登録してね)

「わかった」


紗香は泣いたり笑ったりしながら早口で(またね)と切った


「“友達は友達”フフ」


紗香の言葉を復唱して笑う私の頭に紅太の大きな手が乗った


「嬉しそうだな」


「うん、とても」


「なら良かったな」


「うん。ありがとう」


笑顔で紅太を見上げた瞬間


首を傾けた紅太の顔が近づいて
あっと思った時には唇が塞がれていた


「・・・っ」なに


「ん?可愛いかったから」


「・・・・・・っ!」


頭から湯気が出ているんじゃないかと疑うほど全身が熱い


・・・可愛いってなによ


口を割って出てこない文句は


もう一度近づいた紅太の唇に吸い取られた





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