鬼の棲む街



「・・・ぁ・・・・・・ん」



熱を帯びた肌が


触れられてもいないのに粟立って


与えられる熱に


溶かされていく



理由が欲しいと思っていたのに

それさえもどうでもよくて


ただ・・・

痺れるような口付けに



夢中になるだけ



散々翻弄されて解放されると
倒れ込むように紅太の胸に収まった



トク・・・トク・・・


耳をつけた紅太の胸から少し早い鼓動が伝わって


それよりも早い自分の鼓動とリンクする


「小雪」


胸からも伝わる低い声に


「ん?」


顔を上げる勇気はない




紅太の高い体温が治らない全身の熱を上げて


やっぱり理由が欲しくなる




・・・どうして?



キスするのは何故?




紅太の腕の中でフローラルの香りに包まれて


高ぶる感情



それよりも




戸惑っているのは



嬉しいと思う感情とは別に




苦しいが同じくらいあること



胸がギュッと締め付けられて



分からない感情が涙に変わる



悲しくなんてないのに



芽生えた感情は試すように攻めてきて



私自身を追い詰める



不安定な私を抱きしめて背中を撫でてくれていた紅太は


「ちょっと出るぞ」


身体を離して手を引いた


「・・・?」


長い廊下を進んで玄関までたどり着くと
桜の木の下のベンチに腰掛けた


青空が見えるのはドームが開いているからで

そこからそよぐ風が長い髪を揺らした


「この桜、大澤の本家の庭にあった」


「そこから態々?」


「あぁ、どうしてもと大掛かりな植え替えをしたんだ」


「そんなに好きだったの?」


私の質問に紅太は一度桜の木を見上げた後僅かに顔を歪めた



「好き、とは・・・違う、な」



















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