鬼の棲む街


「ま、驚くのも無理ないな。まずは腹ごしらえから始めようか」


そう言うと「もう少し寝てな」と頭を撫でて部屋を出て行った


・・・えっと


熱っぽい所為か巡らない思考を諦めて素直に目を閉じて待つことにした



・・・



「お待たせ」


運んでくれたのはお椀ほどの小さな土鍋
蓋を取るとお出汁のいい香りがして湯気が立った


「美味しそう」


「卵粥だよ」


身体を起こすのを手伝って貰うと少しずつ口に運んだ


「美味しい」


「そうか」


「あの」


「ん?」


「ありがとうございます」


「ん、いや、良いよ。困った時はお互い様だからね?」


いや・・・お互い様なんてことはない
私なら助けないはずだもの


「私、石山小雪って言います。星南大学の一回生です」


「小雪ちゃんって言うんだね。俺は杉田、此処の一階で喫茶店をやってる」


「此処、お店なんですか?」


「うん。店舗併用住宅ってやつ」


部屋の扉を開閉する時に感じたコーヒーの良い香りはそういうこと


「もしかして、お店の邪魔に」


「そんなことないよ?店は通常通り営業してる
小雪ちゃんは寝てたから邪魔にはなってない」


少しホッとした時には小さな土鍋は空になっていた


「食欲があってホッとしたよ
薬を飲んで、寝てなね。俺は開店準備をするから
それと・・・」


そう言うとタオルの上に並んでいた中から携帯電話を取って私の手に持たせた


「今の子は携帯がないと不安なんでしょ」


クスクスと笑うと更にレトロなマッチ箱を渡して


「何かあったら下に居るから電話してきて」


電話番号が書かれた箇所を指がなぞった



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