鬼の棲む街
鬼の棲む街




鉄壁の要塞


そう呼ばれる建物が二ノ組の本家

冷たい此処に高校入学とともに移り住んだという愛

光の無いあの愛の写真が思い浮かんで胸が苦しくなった



・・・



夕方まで実家で一緒に過ごしたあと


「夜はうちで食べましょう」


そう言った愛に誘われるままついて来た


敷地に入った瞬間から護衛の多さに驚く

建物の中に入ってもそれは続いていた


紅太の部屋と同じようにエレベーターを乗り換えて着いたのは

ルーフバルコニーが広くて開放感たっぷりの素敵な部屋


「凄い」


「でしょう?」


隣で手摺りにもたれて笑う愛は


「此処が一番のお気に入り」


そう言って綺麗な夕焼けの空に向かって
大きく手を広げて深呼吸した


遮るもののない眺望に
ただただ魅入る



リビングに繋がる大きな窓の近くに置かれたソファセットには一平さんと紅太が座っている


そこをチラッと振り返って


「あのソファでプロポーズされたの」


愛は少し照れたように笑った


釣られるようにソファに視線を移す


「南の街から帰った日だったわ」


愛はそう言って左手の薬指に触れた


逃げ出した愛が答えを見つけるまで一平さんはそれを待ち続けていた


自分の左手に視線を落として

紅太とペアの小指のリングに触れる

私もいつかそんな日が来るのだろうか


『死んだって離さねぇ』
聞いたばかりなのに
また欲しいと思ってしまう


「意地っ張りは損するわよ?」


「フフ」


「欲しいものは欲しいって言わなきゃ」


「そうね」




・・・



愛の住む此処では大広間で食事をする習慣はないらしく

側近の大谷さんのお母さんが愛と一平さんの食事を作っている


「美人姉妹は目の保養ね」


そう言ってコロコロと良く笑う沙都子さんも一緒に食卓を囲んだ















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