鬼の棲む街
「ところで、いい加減名前で呼びたいんだけど」
「私も、呼びたい」
「じゃあ軽く自己紹介するね」
田川さんはそう言って自己紹介を始めた
「田川紗香《たがわさやか》です。サヤカでもサーヤでもどうぞ
地元出身で実家から電車通いです」
“軽く”と言った通り簡単に終わった後で私へバトンタッチのように手を出した
「あ、えっと。石山小雪《いしやまこゆき》です
女の子のお友達が出来たの初めてなので間違ってたら教えて欲しいです
名前は・・・コユキって呼ばれたい
私を知らない土地まで離れたくて県を二つ跨いだから、一人暮らしで徒歩で通ってます」
「お〜、一人暮らしなのね。この辺り家賃高いでしょ?」
お互いに自己紹介が終わると何故か二人で拍手をしていて紙コップのお茶で乾杯までした
スッカリ打ち解けたところで
「午後からの講義、サボろう」
紗香の提案に頷いた
そこからカフェテリアへ移動してドリンクを注文すると根を下ろすかのように話に花を咲かせた
・・・
その日の夜
此処に来てから初めて白にメッセージを送らなかった
あの街から離れたかったのに一人は寂しかった
それを埋めるために白との繋がりだけは切れなかった
歪な想いを抱える白と私の関係がこの日を境に複雑になっていく
そのことに気づくのは
もう少し後のこと