鬼の棲む街


「お〜っと。可愛いのにシッカリ者ってギャップ萌えじゃんか〜、ねぇ
じゃあ。また来て欲しいから前言撤回ね
でも、嫌な思いをさせたことは変わりがないからサービスチケットだけ貰って欲しいなぁ」


ゆるゆるの口調なのに今度は何故か拒めない雰囲気も感じて仕方なく頷いた



・・・



「美味しかったね〜」


「酔っ払いを除けば」


「ハハハ」


本当はワインでも飲みたい気分だったけれど。まだ未成年
言い出せなかったのはもしかしたらお互い様かもしれない


駅まで歩いて電車を待つ間に少しお喋りをした


駅の構内に消える紗香に手を振る


「また明日ね」


“また”なんて白以外に使ったことなかったから本当に楽しい一日だった


夢見心地で上機嫌の私は


「キャァァァ」


「静かにしろ」


マンションまでの僅かな距離でまたもビルの間に引き込まれた


・・・ついてない


本日二回目・・・ムカつく


そう思っていた私に


「さっきはどうも〜」


腕を掴んでいる男がそう言った


・・・は?


驚いて見上げれば、さっきの酔っ払いの中に居た気もするけど・・・曖昧で分からない


「一人になっちゃったから好都合でさ。つけてきちゃった」


戯けたように話す男が許せない


「なに?離してよっ」


「離してって言われて離すなら最初から掴んでねーのよ、分かる?」


「分かりたくもないわ」


「おー、気が強い美人ってゾクゾクしちゃうねぇ」


不毛なやり取りの隙にどうにか逃げ出せないかと
大通りをチラ見するけれど遅い時間だけに人気が感じられない


「さっきの合コンハズレでさぁ。ブスの持ち帰りも萎えるから彼女のとこ行くつもりだったんだ〜
そしたら君が見えたからね!これって運命じゃね?的な?」


ペラペラと喋るくだらない話より
この男の掴んだ手が緩む瞬間を逃さないように集中していた


その時


辺りの空気が突然変わった







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