鬼の棲む街



「・・・・・・っ」



驚きに固まる私の視線は



僅かに上がる彼の口角を見つめていた





やがて



「帰れ」



低い声に促されるまま路地から出た


あとはマンションまで真っ直ぐ歩くだけ


背中に感じる強い視線から逃れるように足を進める


現実と夢の狭間で揺れる私は


雲の上を歩いているような足取りにも気付かず


ただひたすら足を動かすだけだった




・・・




リリリリリリ


「・・・っ」


今日は一限からの必須がある日


だから目覚ましの時間は早い



それをベッドに座ったまま止めた





一睡も出来なかった



「ほんと最悪」


眠くて仕方ないのに目蓋を閉じると蘇るのは彼とのシーン


それが蘇るたび


心臓を握られたように胸がギュッと苦しい


その感覚を消すには眠い目を開くしかない


魔の悪循環は朝まで連れてきた



彼の手が頭に乗っただけ


それも・・・そっと触れただけ


彼の意図を何度も探ろうとして見つめていた表情も


僅かに口角を上げた破壊的な美しさを思い出しただけで思考はことごとく停止


何度も諦めて眠ろうと努力したのに

結局・・・起きたままアラーム音を聞いてしまった


ヨロヨロとベッドからおりて支度をする為に寝室を抜け出す

パチッと点いた洗面所の明かりで鏡に映ったのは色の悪い顔だった



「最悪」



午前中だけ受けて午後はサボろう


コンディションの悪い肌を誤魔化す為にいつもより念入りにメイクをした


そして・・・


「おはよう」


マンション前で待っていてくれた紗香と合流して学生の波に乗った








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