鬼の棲む街



(・・・小雪?)

「・・・うん」

(平気か?)

「うん」

(メール苦手で一つ送るのに凄ぇ時間がかかる)

それなのに沢山送ってくれたんだ

(小雪)

「ん?」

(返事がひとつも来てねぇぞ?)

「・・・送る、ね」

(あぁ)

「じゃあ」

(待て、何かあったんじゃないのか)

「・・・ううん。平気」

(そうか)

「じゃあ、また」

(またな)


昨日は言えなかった“また”が躊躇うこともなく口から出た


ひとまず[おはよう]と送ってみる

読んでくれたかどうかも
すぐ返信がくるかも分からないのに

届くまで次を打てない気がして、ひたすら待ち受け画面を眺める

電話には出てくれたけど
もしかしたら苦手なメールを打つ暇がないのかもしれない

諦めようとした時、願っていたそれが届いた


すぐさまタップして開けば


[電話だと近くに居るみたいだった]


「・・・」


私も、同じことを考えていた

今まで数えきれないほど通話なんてしてきたのに間近で囁かれている気がしたのは初めてだった

そこから

  [ちらし寿司は好き]

「雲丹は嫌い]

  [私も苦手]

[今日のちらし寿司は蟹と海老入り]

  [欲張りね]

[どちらかで迷うならどちらもだ]

  [フフ]



時間をかけてゆっくりと小さなやり取りを続けて気がつけば夕方になっていた

離れられなくなる前に晩御飯にしよう


  [出掛けてきま〜す]


それだけ打ち込むと返事を待たずに電源を落とし寝室の充電器に繋いでから出掛けた










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