鬼の棲む街
ホーム画面に戻して目につくのはメールマーク
これ以上、気分が重くなるのは避けたいのに差出人を思い浮かべただけで見たくて仕方ない
そんな私を後押しするのは
既読がつかないメールだから安心して開封できるという閃き
「よしっ」
右手の人差し指が迷いの先をタップした
「・・・」
並んだ名前は全て大澤紅太で一番古いものからとスクロールすれば昨日家に帰った後で受信したものだった
[おやすみ]
[良い夢見ろ]
[おはよう]
[天気良いな]
[朝はコーヒーだけ]
[苺もらった]
[苺は野菜らしい]
[シャンパンよりビール]
[洗濯は人任せ]
[掃除はロボット]
[お昼はちらし寿司パーティーらしいぞ]
[ちらし寿司ってメインになるのか]
[パーティーって好きか?]
ひとつ、またひとつと開けるたびに肩の力が抜ける
会った時に感じた圧倒的な存在感より赤鬼と呼ばれる冷たい紅太の意外な一面に触れたようで
ささくれていた気持ちが凪いでくる
もしも先にメールを開いていたら今頃もっと落ち込んでいたかもしれない
私の事情を知らないはずの紅太を思い浮かべて
気がつけば
紅太の名前をタップしていた
Prrrrr・・・
(もしもし)
聞きたかった低い声が鼓膜を揺らし
その低音が胸をも揺さぶる
(どうした)
優しく聞こえるその声に知らない感情が顔を覗かせた気がした