鬼の棲む街



「いらっしゃいませ」


杉田さんの視線が私の背後に移る。それを追うように振り返れば


「・・・っ」


「・・・雪」


引越しの日以来の白が立っていた


・・・なんで?どうやって此処?


教えたこともないこの店に白が来たことが違和感で胸が騒つく


「ん?待ち合わせかな?」


杉田さんの声に反応せず白と向き合えば


「行こう」と肩を抱かれた


慣れていたはずのハーバルの香りが鼻につく


「どうしたの?」


明日どこかで落ち合おうなんてメッセージは見たけれど返事はしていない

今日此方に来るなんて聞いてないし最近の白は変だ


「ん?雪に会いたくなった」


理由にはなっていないけど、きっとこれ以上は言わないはず


コーヒーを飲みたかった気分を諦めて杉田さんを見た

抱かれた肩の隙間から「また来ますね」と目を細めれば


「あぁ、いつでもいらっしゃい」


優しい眼差しに落ちた気分が少し浮上した



杉田さんの店を出て向かうのは私のマンションの方向で


折角遠路はるばる来てくれたのに気持ちは真逆を思っていた


「どうして私の居場所が」


「電車を降りて歩いてたら雪を見つけた」

コンビニから出たところからつけていたことになる?


「誰かと一緒だったのか?」


「ううん。一人」


「一人で飲んだのか?」


「板さんとお喋りしながらね」


「ふーん」


なんだろう・・・この違和感


何度も言葉の端に感じる棘

白と私ってこんな感じだったっけ?


つい最近まで居心地の良かった白の隣が今は違和感しか感じなくて

そんな自分に戸惑っている



そして
部屋に招き入れた途端に寝室に連れ込まれ押し倒された


「ちょ、待っ・・・んっ」


強引に合わせられた唇

すぐに深くなるそれから逃れようとするのに


白を押し返そうとした手はシーツに縫いとめられた


















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