鬼の棲む街



「小雪ちゃんは抜け出したいと思わなかったの?」


「そんな選択肢、初めから無いに等しいもの」


「足掻いてもないのに?」


「足掻く?」


「幸せは待っているだけじゃダメ!自分から掴みに行かなきゃ」


「・・・掴む、か」


「小雪ちゃんはさ、お人形みたいだよね
お父さんの敷いたレールに乗るからって全てを諦めすぎだよ
どうせ手放さなきゃならないって気持ちが感情にブレーキをかけるから“冷たい”なんて言われちゃう」


「・・・」


まるで双子とのやり取りを聞いていたかのような口振りに顔を上げる


「もしかして、今日此処に来たのはアルバイトを断るつもりだったとか」


「・・・」


「図星か」


「ごめん、なさい」


「それは却下ね」


「・・・」


「あいつらのこと嫌い?」


「嫌いじゃないですよ」


「ヤクザだし、気が短いけど?」


「フフ、初めて会う人種です」


「この街はあいつらが護ってると言っても過言じゃないからね
ヤクザだけど・・・熱くて良い奴らなんだ」


「最近、お友達から聞きました」


「新しい主を支えているけど元々あいつらと俺の主は同じだった」


「愛さんのことですか?」


「そこまで知ってるんだ?」


「私の中ではあの双子を従える大魔神みたいになってますけどね」


「小雪ちゃんみたいに綺麗で可憐な女の子だよ」


「冷酷非道だと」


「陰でしか生きられない宿命を背負って生まれてきたんだ
心を殺して生きる彼女は強くて美しかった」


「過去形?」


「今は彼女より彼女のことを理解している旦那さんが居る
だから、冷酷非道の陰の道も二人で支え合って歩いてる」


「二つ上だと聞きました」


「へ?え?小雪ちゃん二十歳じゃないの?」


「えっと、一回生なので。まだ十八です」

確か自己紹介した時に一回生だと言ったはずなのに

「こりゃ、参った」


ワインをグイと飲み干すと苦笑いのまま


「未成年者の飲酒は禁じられています」


そう言いながらもおかわりを注いでくれた




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