鬼の棲む街


「自由に恋が出来て、なにも手放さなくて良いならどう生きる?」


そんなこと考えたこともなかった


「自由に恋が出来るなら・・・」


叶わない先を考えてみる。そしてグイとワインを飲み干して

「『どうせ』って諦めるのをやめて好きな人に抱かれてみたい」

頭に浮かんだそれを口にしてみた


「そうか」


「恋なんて出来るのかな?“好き”なんて感情知らないのに」


「恋は落ちるもの」


「杉田さんは上級者?」


「んな訳ないよ、上級者ならこんな歳まで一人の訳ない」


「あ、それもそっか」


「はいはい納得しない、年長者を敬って」


「フフ、杉田さんって父様くらいかな」


「ちなみに小雪ちゃんのお父さんって何歳?」


「父様は四十四歳」


「え、マジ?同い年だ」


「じゃあ“父様”って呼ぶ?」


「いやいやご勘弁を
でもね?この街に居る間はお父さんだと思ってて良いよ」


「命の恩人だし?」


「そう」


「フフフ」


「だからね?小雪ちゃん。卒業まで丸々四年あるから折角の四年を楽しんでみたらどうだろ
元の街に居たら出来なかったことをやってみても良いじゃん」


「恋もアルバイトも?」


「結婚する訳じゃないんだし恋もしてみようよ
小雪ちゃん美人なんだから、もしかしたらお父さんの持ってくる縁談より良い相手に巡り合うかもしれないじゃん」


「・・・・・・それもそうね」


「だろ?」


「先ずは諦め癖を直すところから始めよう」


「・・・フフ」


なんだか上手く言いくるめられた気もするけど

折角の四年間を楽しむために凝り固まった頭の中を緩めてみよう


生まれて初めてそんなことを思った日になった





結局


リセットしたのは白に関わる私の携帯電話と部屋だけだった














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