鬼の棲む街
南の街に来て一ヶ月余り
マンションのある中心地以外は殆ど見知らぬ景色で
フルスモークの暗い窓から見える建物に位置を測ることは不可能
街並はどんどん移り変わり郊外から海岸線を走っても車は走り続けている
実家の県まで戻りそうな勢いに
父様絡みだろうか・・・と過ぎった
幼い頃から誘拐の対処法は聞かされていたけれど実際、兄様も私も一度も遭ったことはない
事業拡大で敵を作ることもあるだろう
「降りろ」の声がかかるまでそんなことを考えていた
大きな倉庫、それも車はその内側に止まっていた
シャッターも閉じられ逃げ出すことも出来そうにない
サッと見回しただけで窓と扉、シャッター付近に配置されている人に驚いているうちに
「こっちだ」
ついて来いと言わんばかりに顎をしゃくるから
ひとつ頷いて後に続いた
倉庫の隅にあるプレハブの前まで来ると男は一度振り返って私を見てから扉を開けた
途端に聞こえてきた甲高い笑い声
・・・女がいる?
「連れて来たぞ」
男はそう言うと私の前から避けた
「なんで縛って来ないのよっ」
現れたのは気の強そうな若い女だった
首謀者が女?それもこんなに若い
混乱する私の直ぐ目の前まで来た女は
「な〜にこの髪。あの女の真似でもしてる訳?」
さらに困惑するような言葉を投げてきた
「・・・?」
本当は言いたいことは山ほどあるけど
誘拐された時の鉄則として煽らない、ふっかけない、逆らわないと聞かされてきたから喉まで出かかった声をどうにか飲み込んだ