十六夜月と美しい青色
 結花は、抱かれた腕をほどいて、後れ毛を気にしながら座り直して和人を見た。 

 「この縁談、このまま進めてもらってもいいかしら。婚約期間も1年あれば、お互いのことをもっと知ることもできると思うから。それに、恋人らしいことを何一つしてないまま結婚なんて嫌よ」

 微笑んで応えると、和人は喜びに顔を満面にほころばせながら、結花を壊れ物を触るようにそっと抱きしめた。

 「ああ…、ありがとう」

 和人の言葉にならない喜びが、抱きしめられる腕からも結花にも伝わってきた。

 「ランチに行かない?ここでも食べれるのでしょうけど、折角、一緒にいるのならクリスマスを満喫しに出かけましょ。雪が降り積もるようになったら、またここに来たいわ。ここの日本庭園の雪景色がきっと、とても美しいと思うの。今度は、二人でゆっくり来ましょう」

 「そうだな。今日は、思う存分甘やかしてやる約束だからな。行こうか」

 結花が頷くと、和人はその手を取り料亭を出た。来た時、舞い始めていた雪はやんでいたが、風がひどく冷たくなっていた。結花は(かじか)みそうになる手に息を吹きかけると、和人の大きな手に()かれて石畳を駐車場に向かってゆっくりと歩いて行った。

 「この様子だと、ホワイトクリスマスになりそうだな。その…クリスマスは何か予定があるのか?」

 「平日だし、普通に仕事よ。今のところの予定は、一人でケーキを食べることくらいかな。和人はどうなの?」

 「俺も同じ。じゃあ、知り合いがイタリアンの店をやってるから、予約が取れたら一緒に行かないか?」

 「良いわね」

 和人はセカンドシートのドアを開け、着物の袖が邪魔にならないように手を貸して結花を乗せると、街中の喧騒に向かって走り出した。
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