十六夜月と美しい青色
 「で、結局お見合いの結果そのまま縁談を進めることになったと。結花、お前破談になったあの後、梅崎と何かあったんだろう?無理やり結婚しても、幸せになんてなれないぞ。本当にこのまま話を進めても大丈夫なのか?」

 カフェでランチをしながら、結花は和人とのことを話していた。

 「うん。それは大丈夫。確かに、あの日行ったペンションの小さなバーで偶然に和人と会って、飲めないお酒で憂さを晴らすのに付き合ってもらったの。それで自分と婚約すれば、私の世間体は守ってやるって言われたわ。でも、破談になって直ぐ違う人の事なんて考える余裕もなくて、その時の和人の申し出は断ったの。そこからの、この縁談だからそう思われても仕方がないけど、今はちゃんと和人の事を受け入れたいと思っているし、好きだっていう気持ちも少しはあるわ」

 「それならいいんだ。でも、何か心配事があればすぐ相談に乗るからな。一人で抱え込むなよ」

 ランチプレートについている、デザートと食後の珈琲が運ばれてきた。朝の一件を知っているスタッフなのか、じろじろと結花を()め回すように見ていた。それに気づいた柊吾がひと睨みすると、そそくさとその場を離れて行く。

 結花は、その容姿のせいもあって、和人には隠れファンは多いと柳田が言っていたのを思い出した。きっと今のスタッフも、そういうファンの一人なんだろう。

 「落ち着いて、ご飯も食べられない。モールの外の喫茶店にでも行けばよかったな」
 
 柊吾はそう言いながら、いつも結花が入れるより多いんじゃないかと思うほど、珈琲に砂糖とミルクをたっぷりと混ぜていた。

 「いいのよ、気にしないで。それよりも、柊吾は相変わらずの心配性ね。それこそ、お母さんが気にしてたけど、彼女との結婚はまだなの?」

 「考えてないわけじゃないけど、向こうの仕事の都合もあって直ぐには難しそうだから。でも、俺もいい歳だしな、子どもも欲しいし一緒には暮らしたいとは思ってる。まだ、母さんには言うなよ」

 柊吾が以前、付き合っている彼女は高校の教師をしていると言っていた。いろいろと、タイミングを見計らわないといけないことが多いのだろう。

 「わかってる。上手くいくといいね」

 「ああ。買い物って、何が欲しいんだ?そんなにゆっくりできるほど時間もないだろ」

 柊吾が、おもむろに時計を見て時間を気にしてきた。

 「あまり遅くなると、バイトと柳田だけで回らなくなるからな」

 「そうね。和人に、クリスマスプレゼントのネクタイを買おうと思ってるの。いくつあっても邪魔にはならないでしょ」

 「そんなんでいいのか?」
 
 「クリスマスのデートに誘われたのだって、今朝なのよ。しかも、あの騒動の中だったんだから。我慢してもらうわよ」

 「じゃあ、手っ取り早く済ませるか。会計を済ませるから、先に行ってろ」

 「ありがとう。斜向(はすむ)かいのスーツを売ってるショップに先に行ってるね」

 荷物を手に取ると、結花は相変わらずのスタッフの視線をかわして席を立った。

 

 
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