十六夜月と美しい青色
 街の明かりが、イルミネーションで装飾されて美しく輝いている中、結花と和人は、和人の友人のイタリア料理店に来ていた。

 和人は運転するからと、ノンアルコールのワインをオーダーしていたのに、珍しく結花の方がワインを欲しがっていた。まるで、あの日のバーテンダーにカクテルをオーダーしていた時と同じような目をして。案の定、アルコールに弱い結花は、昼間のことで沈んだ気持ちが追い打ちをかけるようになってしまい、コース料理の始まりにソムリエが注いだワインだけで、料理が終わるころには酔いが回ってしまっていた。

 そしてふたりは、黙々と食事をしながら、時折するありふれた会話にお互いに作り笑いをするだけで、クリスマスを祝うカップルであふれていたレストランの中で、それは存在すらかき消されそうになるほど静かなテーブルだった。

 二人は食事が済んで店を出ると、車のフロントガラスには薄っすらと雪が積もっていた。昼間は一旦()んでいた雪が、夜の気温の低下で再び降り始めていた。

 「気分はどう?」
 
 助手席に結花を乗せて、自分は運転席に座ってシートベルトをすると、すでに目を閉じていた結花に和人は声をかけた。優しく自分を気にかけてくれる声に、結花は朧気ながら返事をした。

 「ごめんなさい…」

 「何に謝ってんだか…」

 呟きながら、和人の大きな手が頭を撫でてくれるのを、結花は気持ちよく感じていた。

 「気にしなくていいから、着くまで寝てるといいよ」

 結花は、少し倒したシートに身体を預けるとすぐに寝息を立て始めた。風邪をひかないようにと、和人は自分が着ていたジャケットを脱いで掛けていた。車内には無機質なエアコンの音と、車のオーディオシステムから、有名なジャズピアニストの奏でるメロディが時間と共に流れている。

 和人は、ハンドルを右手に預けて、左手で結花の右手と指を絡めるように繋いだまま、藤沢の家に結花を迎えに行った時のことを思い出していた。

 藤沢社長と、彼女とのこれからのことを話をした後、紅梅屋のことも柊吾から聞いていた通りのことを話してくれた。その女の理不尽さに苛立ちを感じはしたが、アイツの実直な性格も起因してないとはいいがたいと思う。しかし、そういう所に結花は惹かれたのだろうか。

 和人が藤沢社長と話し終えて、仕度をして出てきた結花を見た時には言葉が出なかった。泣きはらした目元の腫れが、アイシングをしても引いていなかったのか、赤く腫れぼったい目を俯かせて出てきた。

 クリスマスに、婚約者とディナーに行く雰囲気ではなかった。藤沢社長の心配はこれかと思うと、それに気づかないふりをして結花の手を取り出てきた。

 もしかしたら、結花がヤツを追って京都に行ってしまうかもしれないと言っていた社長の心配は、イタリアンの店での結花の様子と相まって、そのまま和人の不安になっていた。その時には、結花がそんな事をするはずがないと、親心に心配し過ぎなだけだと聞き流していたことが、現実味を帯びてくると、1年の婚約期間があまりにも長すぎるように感じ始めていた。

 それでも結花の涙が、自分を選んだことの後悔なのか、凌駕に寄り添わなかった懺悔と別れの涙なのかは和人にはわからなかった。
< 41 / 46 >

この作品をシェア

pagetop