十六夜月と美しい青色

優しいひとりごとー和人side

 『この縁談、このまま進めてもらってもいいかしら。婚約期間も1年あれば、お互いのことをもっと知ることもできると思うから。それに、恋人らしいことを何一つしてないまま結婚なんて嫌よ』

 お見合いの席で、ようやく聞けた彼女の了承の返事。はにかんだ顔がとても可愛らしかった。

 あの十六夜月の夜に、月明かりを背に彼女を抱いた日からずっと抱えてきた思いがやっと満たされたと思った。

 あの日から、たわいもない会話ばかりのトークアプリを睨みながら、何度会いたいと思ったことか。あれほど頑なに拒まれて、素直に会いたいと言えなかったのは俺が(ひね)くれているからか。

 別に結花でなくても良かったんだ、あの時までは。30歳を超えたころから、見合いの話も頻繁に来るようになっていたし、親父からもどうするか聞かれたこともあった。来る話を断るのもかなり骨が折れるはずなのに、結婚しようとしない息子を親父は何も言わずにいてくれていた。

 でも、出会ってしまったんだ、人生の伴侶と呼べる人に。理屈じゃなく、彼女自身に惹かれた。

 紅梅屋のヤツのことを、柊吾に聞かされて驚きはしたけれど、それが彼女を手放す理由になんてならない。藤沢社長にも許していただいたし、手の内からは絶対離さないから。

 ただ、イタリアンの店での食事も、彼女の作り笑いが心の葛藤を表しているようだった。

 そんな結花もいまは、俺のベッドの中ですやすやと寝息を立てている。

 折角のホワイトクリスマスが涙で濡れてしまったけれど、二人で重ねる時間の中でもっと幸せな思い出が出来ればいい。

 
< 44 / 46 >

この作品をシェア

pagetop