十六夜月と美しい青色
4…真夜中の満月
 あのクリスマスから、何もなかったかのように穏やかな日常が過ぎていた。

 結花はお正月に和人の家族と過ごし、少しずつ結婚への周りの期待を感じるようになっていた。二人の結婚を喜んでいる両家の親たちは、ジューンブライドはどうかと二人を急かしていたが、1年の婚約期間を守って欲しいという結花の気持ちを大事にするように、和人が暖かくなり始めたら結納をして、秋に挙式をと話を進めてくれていた。

 そして、結花もフィットモールに出店しているカフェ、”おちゃのじかん”の運営にも柊吾について関わるようになっていた。今は目下、メニューの変更を考えている。甘味処としてのイメージを壊さずに、新しい客層を呼び込むために、地域で拘った材料で作っているベーカリーのパンを仕入れてはどうかという結花の企画を、柳田が面白がって採用してくれていた。

 だから時間があれば、足繁く口コミや地元の情報誌を頼りにベーカリー巡りに精を出しているので、一緒に暮らそうと言っていた和人の申し出を断り、週末に融通がつく方がお互いの家に行くようなスタイルを続けながら、結花の週末の朝食は新しいメニューを試作する場となっていた。

 今朝も、和人のマンションのダイニングテーブルの上には、試食にと買って来たパンでオープンサンドを作って、体が温まるようにと根菜のスープを用意していた。結花は、がさがさと寝室からする物音に、和人が起きてきたのに気づいて珈琲のマシーンのスイッチを押した。

 「おはよう」

 結花が声をかけると、おはようと言いながら結花に優しい視線を向けながら和人が椅子に座っ手食事を始めた。

 「今朝も美味しそうだね。そろそろ、新しいメニューは決まった?」

 「いくつかは候補があるから、店長や柊吾たちと試食をしようとは思ってるんだけどね。コストを考えると、思うようにはいかないわね」

 自嘲気味に笑いながら、結花はコーヒーを和人の前に置いた。それでも、新しいものを作り出そうとする高揚感に溢れていて結花の表情は明るかった。

 「なかなか難しいところだよな。ところで今夜、仕事が終わったら、どこかで待ち合わせをして食事に行かないか?クリスマスの日に行ったあのイタリアンの店を予約して、夜はホテルに部屋を取ってあるんだけど」

 和人は食事の手を止めて、改まった面持ちで話しかけた。

 「何かあったの?」

 その様子から、結花はエプロンを外しながら怪訝そうに和人に聞いた。
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