こうして魔王は娶られましたとさ。
何なんだ。
浮かんだ思考のままに振り向けば、じゃらり、手枷についた鎖が鳴った。
「おお、勇者よ、戻ったのか」
「はい、ただい……はっ! あ、あなたは……!」
かと思えば、ぞわり、背中を這った冷たい何か。
わけの分からない感覚に戦々恐々としながらも、向けた視線の先にいる、空気を一切よまないマナーもくそもない派手な登場をした男を観察する。
青い瞳、金色の髪。加えて、今しがた国王がその男に向かって吐き出した言葉。
「……は……待て、お前、」
「美しいっ!」
「ひっ!」
いや待て、そんな、まさか。
思うが先か、ばちりと視線がぶつかった瞬間、国王が勇者と呼んだそいつは滑り込むように僕の足元に跪いた。
「お名前を! あなたさまのお名前をおう……っぶふ!」
「人の嫁に気安く跪いてんじゃねぇぞくそ勇者が捻り潰すぞ」
かと思えば、真横に立つ男、ロヴァルの長い脚が空を舞い、勇者(らしい人間)の顔面にめり込んだ。
「っお、おい、しん」
「蹴り一発で死ぬような勇者なんざ死ねばいい」
相当な衝撃だったのだろう。
文字通りぶっ飛んだ勇者(らしい人間)は口端から漏れた唾を撒き散らしながら床へ顔面で着地し、伏した。
汚ぇな。
真横で吐き捨てられた、嫌悪感のみで形成された低い声。気持ちは分からなくもないが、些か理不尽ではなかろうか。ぴくりとも動かない床のそれを見ながら、僅かばかりの同情を覚えた。
「で?」
「え?」
「呪いに弄ばれてるくそ勇者はそいつだ」
「……みたい、だな」
「ちなみに俺は鍛冶屋の息子だ」
「そ、そうか、」
「てことは? つまり?」
「……つ、まり、その、あれだな」
「……」
「……お前は呪われてなど、いない、な」
のも、つかの間。
「ご名答。さすが、魔王さま」
「ひっ!」
にたり。
魔族ですら滅多にしないような悪どい笑みを浮かべられて、びくっと肩が揺れた。