こうして魔王は娶られましたとさ。

「何言ってんだお前」

 どうやら今回は音声付きらしい。
 青いそれを(すが)めて、勇者ロヴァルは吐き捨てる。

「俺は呪われてねぇ」
「……呪いは何億年も前から続いてる。何もお前だけに限ったことじゃない。だから、今お前が感じてるものは全部呪いのせ」
「違ぇっつってんだろ」
「っ」

 こちらも負けじと、己の知る歴史を語る。
 直接かけられたわけではない。遥か昔から、勇者の血族だというだけで無差別に植え付けられたものなのだ、と。
 
「俺の気持ちは、俺が一番よく理解してる」
「だか」
「決めつけて、否定すんな。そんな権利、俺にだってねぇんだわ」
「……っ」

 しかしやはり、一筋縄ではいかなかった。
 (すが)められたままの青。けれどもそれはどこまでも真っ直ぐで、吐き出さなければならない否定の言葉はひゅるりと喉の奥に戻っていく。
 愛だの恋だの。僕にはよく分からない。魔族は、強さが全てだ。無論、種族を統べるともなればそれなりのカリスマ性も求められるが、欠かせないのは、強さ、その一点だ。当然、魔王として生を成した僕より強い魔族なんて両親と弟しかいない。
 そんな僕が、偉そうに愛や恋を語る資格なんてないという自覚はある。だけど、彼が勇者である以上、明らかにこれは呪いが働いた(ゆえ)のものだ。
 だから、いくら彼自身がこれは本物なのだと言い張ろうと、それが魂の叫びなのだと気付いてしまっても、向けられた全ては呪いによって生み出されたまがい物。甘受(かんじゅ)するわけにはいかない。
 僕は、否定する。お前が諦めるまで。
 改めてそれを決意し、視線の先にある青を見据えた。

「国王さま!」

 瞬間、バァンッ! と、背後でいやに派手な音が立てられて、無駄にでかい声が鼓膜を通り抜けた。
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