再会は涙色  ~元カレとの想い溢れる一夜からはじまる物語~
いざ、理久を着替えブースから送り出しても、裏では次の衣装チェンジに向けての準備と確認がバタバタとされる。

体育館に響く理久の歌声を聞きながら、麻衣も稜真と一緒に確認作業を進めていった。

完璧に準備ができてから、少しだけ余裕ができた麻衣は、着替えブースから出て、理久の姿をみに行った。麻衣の場所からみられるのは理久の背中だけだ。

それでもいい。理久の背中に麻衣はエールを送る。

「もったいないと思いません?」
そんな麻衣に話しかけてきたのは打ち合わせでも何度も会っている、理久の会社のマネージャー。
「こんなにも歌が好きで、こんなにも実力のある歌手、私はほかに知りません。周りの人をひきこむ力も持っているのは彼の天性の才能だと思っています。」
麻衣よりも少し年上に見えるその女性は、理久の後ろ姿をじっと見つめながら腕を組んで話し続ける。
「そんな彼が表舞台から姿を消すなんて。たくさんのファンが泣きます。確実に。」
「・・・」
麻衣は何も返事を返せないまま、理久の背中を見つめる。
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