運命なんて信じない
「失礼しまー」
そこまで言って、私の言葉が止まった。

ひどい。
そこにいたのは、随分と疲れた顔の賢介さん。

「大丈夫ですか?」
「ああ、何とかね」

声も幾分弱々しい。

「これ、おばさまからです。少しでも食べてください」

「ありがとう」

目の前の疲れ切った賢介さんの姿に、かける言葉がない。

「ひどい顔してるだろう?」
「そんなこと・・・」
ありませんとは言えなかった。

「今は寝起きだから。顔を洗って着替えたら、シャキッとするから。そんな顔しないで」

え?

「ごめんなさい」
無意識に顔に出ていたらしい

「琴子」

ソファーに座る賢介さんが、ポンポンとソファーの隣の席を叩く。
おいでって事だよね。
私は素直に、賢介さんの隣に腰掛けた。

「少しだけ充電させて」
そう言うと私の方を向いた賢介さんが、肩に顔を埋めてきた。

「賢介さん」

「ごめん。少しだけだから」

その声があまりにも切なくて、私は右手を背中に回し左手で賢介さんの頭を抱え込んだ。

「琴子、ごめんよ」

なぜ私に謝るのか分からない。
でも、今ひどく苦しんでいるのは分かる。
何も出来ない自分が、ただただもどかしかった。
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