運命なんて信じない
陸仁さんが会計をすませ、レストランを出る。

真っ直ぐに廊下を進み、上層階の客室に向かうエレベーターを2人で待った。

ああ、もうこれで賢介さんとは会えない。
こんなことをした私を許してくれるはずもない。

「泣きそうだね」
ちょっとからかうように、陸仁さんが振り返った。

「そんなこと・・・」
ありませんと言いかけて、やめた。

確かに、今の私は泣きそうな顔をしている。

ピコン。
エレベーターのドアが開く。

私は陸仁さんとエレベーターに乗り込んだ。

その時、
もう1人、男性が駆け込んできた。

ええええ?

賢介さん。

「お前は馬鹿かっ」
大きな声で、怒鳴られた。

私は事態が飲み込めず、
ただ立ち尽くした。

「琴子ちゃん。自分に嘘をつくのはよくないよ。そんなことしても、誰も幸せにはなれない」
陸仁さんが真面目な顔をして言う。

「賢介、お前もあんまり怒るな。琴子ちゃんもお前のことを思ってしたんだ」

私をかばうように賢介さんを振り返り、手に持っていたキーを渡した。

「ああ」
賢介さんはそれしか言わない。

これは一体何の茶番だろうか?
出来ることなら、この場から消えてなくなりたい。
しかし、そうはいかなかった。
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