運命なんて信じない
「沢さん、藤沢さん」

「琴子、呼ばれてるわよ」
麗が肩をつつく。

ん?
あっ、ボーッとしてた。

「藤沢さん」
「はい」
慌てて返事をした私に、ゆっくりと近づく三崎さん。

「研修中に考え事とは感心しませんね。具合でも悪いですか?」
「いいえ」
「では、ちゃんと集中してください」
「はい、すみません」
私は恥ずかしさにうつむき、マニュアルに目を落とした。

「大丈夫?」
肩を落とした私に、麗が声をかけてくれる。
「うん、ごめん」
ただでさえ麗は目立っているのに、私のせいでまた注目されてしまったね。

麗は一見派手に見える。
でも、それは外見や家庭環境による先入観が強すぎるからだと私は思う。
麗の父は作家の立花淳之介。母は舞台女優の立花可憐。
それだけでも、話題性抜群なのに学生時代には麗自身も読者モデルとして活躍していた。
確かに、ひがまれても仕方ないと思えるほどの経歴ではある。
それでも、中身はごくごく普通の女の子だ。


「琴子、お昼に行くよ」
なんとか午前の研修が終わって、席を立ち昼食に向かう麗が私を呼ぶ。

「待って、私も行くから」
私も慌てて麗を追った。
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