運命なんて信じない
「今日のお客様。モデルの谷口美優でしょ。さすがに、綺麗だったわね」
お昼休みの社員食堂でお弁当を広げながら、彩佳さんが話しだした。

ああああ、分かった。
確かにどこかで見た気がしたけれど、モデルの谷口美優か。

「琴子ちゃん何か話しかけられていたけど、知り合いなの?」
「いえ」
どうやら綾香さんに見られていたらしい。

「気を付けなさいね。噂では専務のお相手らしいから」

専務の、お相手?
不思議そうな顔をした私に、彩佳さんはなおも話し続ける。

「彼女も谷口物産のご令嬢だから、専務との縁談が持ち上がってもおかしくないわ」

賢介さんに、縁談?
冷静に考えれば、この先平石財閥を継承することが決まっている賢介さんに縁談があるのは当たり前のことだ。
頭ではわかっているのだけれど・・・

「まあ、私たちには無縁の話よね。琴子ちゃん、コーヒー飲む?」
後半は、食後のコーヒーを尋ねられた。

「いいえ、私はいいです」
「そう」
席を立ちコーヒーを買いに行く彩佳さん。

その時、
ブブブ ブブブ
メッセージが来た。

あれ、麗からだ。

『谷口美優が琴子と連絡が取りたいって言ってるけれど、知り合いなの?さすがに連絡先を教えるのは嫌だから、あなたに美優の連絡先を送るわ。嫌じゃなかったら、連絡してあげて』
と、美優さんの連絡先を添付してあった。

学生時代の麗は読者モデルをしていたから、きっとその頃の知り合いなんだろう。
もちろん、私は自身は美優さんに用事はないが、賢介さんとの事で誤解があるなら説明した方がいい気もする。

どうしよう・・・

「琴子ちゃん。戻るわよ」

昼休みを終えた彩佳さんが食堂の入口で私を呼んでいる。
私も急いで席を立つと、彩佳さんと共に午後の勤務に向かった。
< 39 / 190 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop