運命なんて信じない
バシッ、ドスッ。
耳に入ってくるのは、もみ合う音。
意識もうろうとした私は駐められた車にもたれかかりながら、かろうじて立っていた。

しばらくして、
「警察を呼ばれたくなかったら、消えろ」
ドスのきいた一言で、大地さんは逃げていった。

「琴子、大丈夫か?」
翼が駆け寄り、私を支えてくれる。

「ダメ、大丈夫じゃない。お酒に何か混ぜられたみたいで、凄く気持ち悪い」

飲んでいる途中から何かおかしいのは気づいていた。
でもまさかお酒に何か混ぜるなんて、思ってもいなかった。

「琴子も無茶するよな。俺が来なかったらどうしていたんだよ?」
私を睨みながら、説教口調の翼。
「仕方ないじゃない、他に方法がなかったのよ。それに、翼はちゃんと来てくれたでしょ」

危険な行動なのは理解している。
もしも翼が来てくれなかったらと思うと、想像するだけで怖い。
それでも、いざとなれば大声で騒いで逃げ出すつもりだった。あの時点ではそれができないほど酩酊していたわけでもないし、過去にも同じような経験がありまだ大丈夫だとの自負もあった。

「もしかして、こんなこと初めてじゃないのか?」
「まあね」

私の返事を聞いた翼が、意外そうな顔をする。
やっぱりそんな顔になるよね。
自分でも褒められた生き方でないのはわかっている。
でもね、それが私なんだから仕方がないじゃない。

「で、後は自宅に送ればいいんだな」
「うん、お願い。ありがとう翼」

無事逃げ出せたことにホッとして気持ちが緩んでしまった私は、翼が運転する車の後部座席で意識を失った。
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