運命なんて信じない
玄関の外に出から5分ほどで、車は到着した。

「こんばんは」
運転席から坂井が降りてくる。

車内を見ると、琴子が後部座席に寝かされているようだ。

「何があった?」
俺にしては珍しく、強い口調になった。

「詳しい事情は分かりませんが、どうやら薬を盛られ動けなくなったようです。今は酔っぱらって眠っていますので、危ない薬ではないと思います。僕は藤沢からの連絡で駆けつけて、ホテルへ連れ込まれる寸前のところを間一髪で救出しました」

今夜起きたことを説明する坂井の話を聞きながら、俺は背筋が凍るような思いを味わった。
坂井が助けてくれなければどうなっていたか、想像するだけで恐ろしい。

「なんて無茶なことを・・・」
無意識のうちに口を出ていた。

どんな事情があってこうなったのかはわからないしが、琴子をこんな目に合わせた奴を俺は絶対に許さない。

「あの、専務は谷口美優さんをご存じですか?」
なんだか意味ありげに、坂井が尋ねてきた。

「ああ、知っている」
いきなり出てきた名前に不思議な気はしたが、隠すこともないだろうと答えた。

谷口美優はモデルで、谷口物産の娘。
個人的に親しいというわけではないが、彼女の父親である谷口物産の社長から縁談を打診されているのは確かだ。
彼女の方はその気があるようで、俺に会いたいと何度か会社を尋ねてきてはいるが、俺はまだ返事もしてもいないし、ましてやお見合いをした訳でもない。

「麗の話によると、彼女が琴子に連絡を取りたがっていたらしいんです。もしかしたら、今日会っていたんじゃないかと思います。それ以上の事は本人でなければ分かりませんが」

なるほど、そういうことか。
会社では琴子がうちに住んでいると公表していないが、少し調べれだわかることだと思う。
谷口物産か、谷口美優本人かはわからないが、琴子との存在を知って何か行動を起こしたのかもしれないな。
それにしても、なぜ俺に話してくれなかったのか。
スヤスヤと眠る琴子を前に、俺は憤りさえ感じていた。
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