運命なんて信じない
家に帰った俺は、琴子をベッドへと運んだ。
当然母さんも起きてきたが、どうやら飲み過ぎてしまったらしいと説明すると深く追求することもなく納得してくれた。
ぐったりとして目を閉じたまま起きる様子もない琴子の着替えを母さんに頼み、俺は書斎の戻って史也に電話を入れた。


「すまないな、こんな時間に」
「いえ、どうかしましたか?」
深夜遅くにかかってきた電話に、史也の声も緊張気味だ。

「明日のスケジュールで動かせるところはすべて動かしてくれ」
「何かあったんですか?」
「琴子が寝込んでいる」

はあ。
史也の溜息が聞こえた。
きっと過保護な俺の過干渉とでも思ったのだろうが、事態はそう単純なものではない。

「悪いが、今夜谷口美優が誰とどこで会っていたのかを調べてほしい。それと、明日中に谷口物産の社長を呼んでくれ。断るようなら、取引を切ってもいいんだぞと脅しても構わない」
「専務、一体何があったんですか?」
俺のただならぬ様子を感じ取った史也が、説明を求めている。

人に話すようなことでもないが、史也に黙ったままってわけにはいかないだろう。
俺は、今夜の件を当たり障りのないところだけかいつまんで話した。

「なるほど、それは大変でしたね。スケジュールは調節します。谷口社長との面談には弁護士を呼びますか?」
「いや、あまり大事にしたくない」
「分かりました」
珍しく不機嫌な俺に、史也もそれ以上は口を出さない。

剛腕で俺にだって厳しい意見を言う史也だが、やはり優秀な秘書だ。
こういう時は本当に頼りになる。
俺は「悪いが頼んだぞ」と電話を切って琴子の元に戻った。
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