運命なんて信じない
「おや、男連れかよ」
気色悪い笑みを浮かべ、田中が向かい合って席に着く。

とりあえずビールとウーロン茶を注文し、田中は翼の顔を凝視する。

「この前、立花麗と一緒にいたよな」
「ああ」
不機嫌そうな翼。

「一緒に来たって事は琴子の男ってことか?」
凄くいやらしそうな目。

「お前に、関係ないだろう」

「まあ、俺は金を少し用立ててもらえればそれでいいんだ。琴子の男に興味はないし。30万でいいか?」
さも当然のことのように、田中は言った。

「断わったら、どうする?」
ギロリと翼が睨む。

「そんなこと出来ないだろう。なあ、琴子」
「・・・」

確かに、田中の元には当時の写真が残っているかもしれない。
もし本当にそんなものがあって、外に出れば私は困ったことになる。

「こいつを脅せば、今度は俺があんたをつぶすよ」
無表情に話す翼。

「はあ?お前、何言ってるんだ?」
馬鹿にしたように、田中が翼を見る。

「このあいだの店だって立花の母親の行きつけの店だ。その気になれば従業員1人辞めさせるくらいの力は持ってるんだけど?」

「いい加減なことを・・・」
「本当だよ。俺だって、お前1人つぶす力はあると思うけれどな」
自信満々に話す翼は、私が見ていても怖いと感じた。

「お前」
そして、あきらかに田中も動揺した。
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