運命なんて信じない
警察の取り調べでは、住所、名前、勤務先、事件の流れを訊かれた。

田中も私たちもゆすられていたことには触れず、昔の知り合いと久しぶりに飲んでいてつい口論になったと話した。
田中は前科があったようで、途中で別室へと連れて行かれた。

「お二人とも、未成年ではありませんが、どなたか身元引受人に来ていただけませんか?」

若い警官に言われ、書類を渡される。
ここに身元引受人の連絡先を書けって事らしい。

「麗でいいのかなあ?」
誰でもと言われても思い浮かばなくて、翼を見た。

「いや、専務を呼ぶべきだと思うよ」

え、賢介さん?

翼は、昔からかわいがって貰っているという元バイト先のマスターを呼んだ。
私は・・・

「家族を呼びますから、自分で電話したらダメですか?」
こうなったら、出来るだけ当たり障りなく伝えたい。

「ダメなんです。こちらから連絡する決まりでして」
申し訳なさそうに警官が言う。

「琴子、諦めろ。こうなったら専務に隠しておく訳にはいかないんだから」
「でも・・・」

昔のことを知られてしまったら、私はもう平石の家にはいられない。

「いいよ。俺が書く。名前と携帯番号でいいんですね」

躊躇っている私から用紙を奪い、翼が記入してしまった。

「これで間違いありませんか?」
最後に警官に確認され、私はコクンと頷いた。
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