運命なんて信じない
本当の私
30分ほど待って、賢介さんが現れた。

「琴子!」

私の名前を呼びながら入って来た賢介さんは、普段とは別人のように慌てている。
いつも家で見るようなラフな服装にかろうじてジャケットを羽織り、乱れた髪のまま駆け込んできた。
キョロキョロと周囲を見回した後、パイプ椅子に座る私を見つけると、
「琴子大丈夫か?怪我はないのか?」
心配そうに私を見る。

そして、隣に座る翼に気づき、
「お前がついていて何で危険な目に遭うんだっ」
珍しく、怒鳴った。

珍しくどころか、賢介さんが大声をあげる姿を初めて見た。
どんな時も冷静沈着で落ち着いている賢介さんとは思えない姿に、私の方が慌ててしまった。

「賢介さん違うの。私がお願いしたの。だから」
翼を怒らないでと言おうとしたのに、
「たとえそうだとしても、こんなことになる前にお前が止めろ」
賢介さんは不機嫌なまま翼を睨んでいる。

その後も、私ではなく翼に怒る賢介さん。
それに対して、翼は何の言い訳もしない。
ただ私一人がいたたまれない思いを抱いたまま、そこに座っていた。
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