運命なんて信じない
「わかりました。すべてを話します」
そう言うと、私はソファーに腰掛けた。

向かいのソファーに、賢介さんも座った。

「私は賢介さんが思っているような人間ではないんです。おとなしいお嬢さんでもないし、清く正しく生きてきたわけでもありません」
「そんなことは思ってないよ」
何だそんな事かとでもいうように、賢介さんはニコニコしている。

でも、おそらく賢介さんは本当の私を知らない。
それを知れば、すぐに離れて行ってしまうはずなのに・・・

「私は確かに、おばさまから学費の援助を受けていました。でも、祖母との暮らしは苦しくて、私が働かないと食べていくことが出来なかったんです。中学高校の時代から私はずっと働いていました」

それで?と賢介さんの視線が話の続きを催促する。

「人を傷つけることと、自分の体を傷つけること以外なら、何でもしましたよ。私は悪い子なんです。そして、生活に困ればまた同じことします。今日のことも、当時の知り合いに脅迫されたのが原因です。こんな女を、賢介さんは愛せますか?」
一気に言って、息をつく。

ここまで言えば、賢介さんの気持ちは離れて行くはずだ。
平石コンツェルンを継承する賢介さんに、私みたいな女が釣り合うはずもない。

「あのね琴子、君は誤解しているよ。俺はずっとずっと以前から琴子のことを知っているんだ。まだ小学生だった頃の琴子がどんなにかわいかったかも知っているんだよ」
「嘘」

そんなこと私は知らない。
だって、私はずっと祖母と二人きりだったもの。
< 80 / 190 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop